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僕がエベレストで感じたI Will Not Complainなこと。

2023.10.26

僕がエベレストで感じたI Will Not Complainなこと。

忘れられないエピソード

Hiro

ちなみにどんなエピソードがあったの?いくつか教えてよ。

IKU

まずはエベレストに向かうきっかけになった出来事です。僕の冒険仲間がエベレストに挑戦すると言い出したとき、うらやましいけれど自分にはまだその資格がないと思っていた。それをある女性登山家に話したときに、「関係ないんじゃない?登りたかったら登ればいいじゃない」と言われ、そのひと言でパラダイムチェンジが起きた。「そうか、自分の可能性にキャップしていたのは自分自身だったんだ」と。これが自分の中では大きな転換点でした。

Hiro

なるほどね。

IKU

それから、パーティのメンバーとのコミュニケーション手法も勉強になりました。最終アタックに近づくとそこはもうある種の極限状態なんです。人間の本質的な部分が露呈するわけで、その中でいかにパーティとして機能するか。そこはこの仕事を通じて培ってきた能力が役に立ちました。一人ひとりの行動特性を把握して、先回りしてファシリテートしていく。僕自身は今回の成功要因の一つと言っていいんじゃないかと考えています。

無事にベースキャンプに到着。仲間たちと乾杯

Hiro

それを極限の状態で冷静にできたのがすごいね。

IKU

もう一つは、山頂近くで酸素マスクが機能しなくなったこと。サウスサミット(※1)あたりから酸素マスクが凍りついてだんだん酸素が吸えなくなったんです。そこからは本当に苦しくて、体力の消耗も激しくて、ヒラリーステップ(※2)からは実質無酸素で登頂したんです。「登頂の瞬間どんな気持ちでしたか?」ってみんなに聞かれるんですけど、ただただ倒れそうだった(笑)。シェルパに言っても「問題ない」しか言ってくれなくて、ガイドの倉岡さんに泣きついたら、マスクの蓋をパカって開けてガリガリと氷を落としてくれて、やっと吸えるようになったんです。それから慌てて写真を撮って下山に向かったんだけど、あの時の空の青さは忘れられないですね。

※1サウスサミット…エベレスト南峰8,749m。エベレスト山頂と約130mの距離。
※2ヒラリーステップ…エベレスト山頂とサウスサミットの間にある切り立った岩壁。

山頂付近で凍りついた酸素マスク

Hiro

登頂時の笑顔の写真の前後にそんなことがあったんだね。

IKU

酸素のことで言えば、登りで渋滞した影響で下山の途中で酸素が足りなくなったんです。キャンプ4まで戻ってきたときにはもうみんな疲労困憊で、ガイドの倉岡さんが「僕はここに残るから、みなさん先に降りてください」と口にするような状況でした。話し合った結果、全員で下山を続けることにしたんだけど、それからはまた苦しくて、キャンプ2にたどり着いた時は心からほっとしました。今回のチャレンジでいちばん命というものに向き合った時間だったと思います。

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