本質的なシニア人材の活性化を考える前提として
それでは、ここから本格的なセッションを始めていきたいと思います。資料はいくつか用意していますが、柔軟に進めていきたいと思っています。
先ほどの皆さん一人ひとりのお話から、それぞれの現場でさまざまな工夫や実践がなされていることがよく伝わってきました。その一方で、完全に満たされているわけではない、何かが足りていないという実感も、どこかにあるのではないかと感じています。
例えば、「制度は整っているけれど、人が動かないのはなぜか」、「シニア人材って結局スキルが足りていないよね」、「動機付けがうまくできていないのでは?」、「支援しても、周囲の反応が冷ややかで、結局成果につながらない」といった悩みです。
こうした悩みを、頭のどこかで抱えている方も多いのではないでしょうか。制度や仕組みの整備だけでは、人は動かない。会社側の都合でつくった制度では、限界がある――。それが率直な実感です。
私たちIWNCでは、このような状況を打破する一つの考え方として「Reignite(再着火)」を提案します。すでに心が少し停滞しているような社員に、もう一度火を灯す。活力を与える。そうした「再点火のきっかけ」をどう生み出すか。これが、私たちの問いです。
ここで重要なのは、対象を全体に広げる必要はないということです。企業には、シニア層でも積極的に活躍している人がいれば、そうでない人もいます。そして、ほんの少しの後押しで大きく変わる可能性を秘めた「真ん中あたり」の人たちが必ず存在します。私たちは、そうした層に焦点をあてたアプローチを模索しています。
これまで、多くの企業では「人事が声をかけて参加を促す」といったやり方が主流でした。しかし本来望ましいのは、本人が自ら気づき、手を挙げること。とはいえ、それが難しいのも現実です。
「なんとなく自分はもうピークを過ぎたかもしれない」
「今さら目立つのは気が引ける」
そんな思いから、一歩を踏み出せずにいる人も多いのではないでしょうか。
私たちは、そうした人たちの中に眠る「本来、役に立ちたい」「もう一度力を発揮したい」という想いに働きかけられるような、仕掛けやプログラムのあり方を、今考え続けています。

会社の「おせっかい」は、人生の誇りに変わるか
企業によっては、「シニア社員の生き方は個人の問題。そこまで会社が踏み込むべきではない」というスタンスを取られることもあるでしょう。それは一つの見方として理解できます。
しかし、30年40年とその会社で働いてきた人が、仕事人生の最終章で「自分はこの会社で働けて本当に良かった」と自信と誇りを持って語れるかどうか――。この問いは、個人の問題であると同時に、企業文化の問いでもあると私は思います。
たとえ会社側としては、「そろそろ若手にバトンを渡してほしい」と感じていたとしても、それをどう伝え、どう整えていくかによって、本人の受け取り方や退職後の人生の質も大きく変わってきます。
「この会社でありがたかった」
「自分の仕事人生は誇れるものだった」
そう思ってもらえるような体験や気づきを、退職の直前ではなく、その少し前から丁寧に設計する。
その中に、「自分はまだ役に立てる」「自分には価値がある」という自己効力感の再発見があります。そして、それを行動へと変えるための後押しの仕組みが必要です。
私たちは、そうした場づくりこそが、これからの人材活用、特にシニア層へのアプローチにおいて重要なのではないかと考えています。