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近い未来に必ず起きる世界の変化に、対応できるリーダー人材を育成する。

2022.10.12

近い未来に必ず起きる世界の変化に、対応できるリーダー人材を育成する。

金融・保険業界

損害保険業界の国内リーディングカンパニー、N社の経営層は危機感を抱いていた。これまで国内市場で保持してきた優位性が、グローバル化の波の中で一気に損なわれるリスクがあった。近い未来に確実に起こる変化。氷山はもう溶け始めている。未来を切り拓く力を持った次世代リーダーを育成すべく、30代後半〜40代の次長・課長クラスを対象に、半年にわたるプログラムがスタートした。

優等生リーダーシップを突き崩す

「これまではオペレーション、これからはイノベーション」。N社では令和の新時代を迎え、そんな声が強まり始めていた。国内市場における優位性がイノベーションの足かせになる。それほどにN社の牙城は強固だった。優秀な人材も溢れている。ただ、既存の枠組みの中でなら一瞬で最適解を導き出す彼らは、枠組みそのものが崩れたときにどうなるのだろうか?

現在、上級管理職手前の彼らに自分のリミッターを外す機会を提供する。そうすることで、正しい選択ができる優等生ではなく、「私はこれをやりたい」という自らのビジョンを打ち出せる人材を発掘したい。「一番厳しいプログラムをやってください」。そんなオファーをいただいて、半年間にわたるプログラムが計画された。

浮き彫りにされた本当の自分

Step1は八ヶ岳の山腹でスタートした。地図とコンパスを手に、5人1組で途中のチェックポイントをクリアしながら山稜のゴールに向かう。スタートは夕方5時。夕闇が迫る。業務の中では常に正しい解答を続けてきた彼ら。しかし、絶対的に情報が不足する中ではどんな反応を示すのか。人間の本質が見えてくる。合意を取るフリをして他人に意思決定を委ねてしまう人。チームを置き去りに自分だけ突き進んでしまう人。立ち止まってしまう人。決裂するチーム。目標時刻を過ぎてもゴールは見えない。

答えが見つからないとき、自分はどう行動するのか?真っ暗な山の中で、自分の知らない自分が顔を覗かせる。自分はこんな人間だったのか。ショックを感じる人、希望を抱く人、決意を持った人、反応はさまざま。震えるような寒さの中、ようやくたどり着いたゴールのロッジで、それぞれが自分自身に対する新たな認識を抱く。ここが旅の始まりとなった。

リーダーシップスピーチ

1ヶ月後のStep2も八ヶ岳。前回の体験に続いて、さまざまなアクティビティの中で生まれた感情を、一人ひとりが自分の中で昇華していく。やればできる。全員の顔つきが変わりつつあった。ここから先のキャリアでは、求められる役割が変わる。その覚悟を持つことができた。これまで信じてきた強みは、これからも強みでありうるのか?危機感が一人ひとりの中に芽生える。でも自分たちなら絶対に乗り越えられるはず。プロジェクトから得た効力感が身体の中に残っていた。

これからは自分自身が人生のオーナーとなる。果たして、それはどんな自分だろうか。かっこいい自分とは?譲れない価値観とは?最終日、「自分の軸」を発表するリーダーシップスピーチ。森の中に響き渡る自分の声は、聴衆としての自分を感動させる。言葉が腹に落ちる。決意が固まった。一人ひとりの人生にオーナーシップが生まれた瞬間だった。

挑戦と実践、そして葛藤

その後もプログラムは続く。海外でのアウェイ体験。自分たちの当たり前がまったく通じない世界に身を置くと、これまでいかにコンフォートゾーン(ぬるま湯)の中にいたのかがわかった。今変わらなければ。一人ひとりのリーダーシップに最後の火がつく。

帰国後は「Myプロジェクト」を計画。これまでの旅を経て生まれた志を行動に変えて実践する。各人がこれまで目をつぶってきた組織の中の「違和感」に着目した。隠れているタブーは何か?根底にある解決すべき課題とは?今まで手を付けてこなかった本質的なプランがいくつも生まれた。

ある者はクライアントに対して、驚くような提案を試みた。それはN社の既存の枠を飛び越えたアイデアだった。理想主義、荒唐無稽。批判も嘲笑も甘んじて受け入れた。けれど、彼には明確なビジョンがあった。確かに短期的には利益を失うかもしれない。しかし、長期的視野に立てば間違いなくたくさんのwin-winが生まれる。それこそがN社の新しい強みとなるはずだ。まずは徹底的に相手軸に立つべきではないか。

しかし、動けばそれだけ壁にぶつかる。できない理由はいくらでも生まれる。周りの意見に乗っていた方がどれだけ楽だったか。志を曲げれば、すぐにでも周囲を納得させるアウトプットを出せる。でも本当にそれでいいのか。自分は何がしたいのか。苦しい。

旅立ちへの伴走

まずは同じ船に乗れる人を探そう。若手にも相談した。上司とも腹を割って話した。そして、プロジェクトの仲間にも助けてもらった。みな、それぞれにもがいている。何十年変わらない職場環境を変革しようとする者。ユニークな新商品の開発に着手する者。I Tを駆使してグローバル化を促進しようとする者。誰もが背伸びをしながら、挑戦を続けている。自分の人生のオールを自分が握る。その気持ちで通じ合っていた。

挑戦はまだ始まったばかりだ。振り返っても轍はまだ短い。でも確実に自分が残した爪あとがあった。「なりたい自分に近づけたか?」最後のStepでは自分に問いかけるスピーチをした。チャレンジした人間にだけ見える新しい景色がある。もっと自分に期待しよう。もっとわがままに生きよう。ここからまた一歩を踏み出そう。かつての優等生たちの姿は、もうそこには見えなかった。