企業経営×健康

3. 日本初の「バチスタ手術」

さっきも言ったように、心臓外科医になろうと思ったきっかけがこの心臓移植で、1968年の『LIFE』の表紙にもなりました。まさに心臓イコールLIFEそのもので、これを移植して蘇らせるというのにすごくインスパイアされて、ためらうことなく心臓外科医になろうと思ったんです。日本人の主な死因って、昔は3つでした。癌と心臓と脳卒中。ところが、ここ数年で肺炎がめちゃくちゃ増えて、今は脳卒中を抜きました。だから今は4大死因なんです。1番は癌ですが、癌はいろんな臓器ですから、単一臓器で1番の死因はやっぱり心臓なんです。

心臓はご存知のように休むことなく動いていて、1日に約10万回動いています。だから、還暦まで生きると20億回動き続けるんです。腹筋、腕立てを1万回やれと言われても誰もできませんけれども、心臓の筋肉は何十億回も動き続けてくれるんです。これはMRIで撮った心臓ですけど、こういうふうに非常にしっかりした筋肉が力強く動いて、溜め込んだ血液を一気に身体中に送ってくれる。今、ここにいらっしゃる皆さんの心臓も実はちゃんと動いているんです。一言で心臓病と言っても色々あります。まず生まれつきの奇形です。壁に穴が空いているとか、右と左が反対とか、あるべきものがないとか、そういうものを先天性の心疾患といいます。今日お話する、虚血性心疾患というのは、狭心症や心筋梗塞のことです。これが働き盛りの、特に男性にいきなり来るもので、社会的にも家族としても柱を失うということで、本当に大きな問題になっているわけです。これを助けるという話を、今日はします。

それからもう一つ、心臓の中には弁がありますけれども、これが壊れてくると、弁膜症といって心不全の原因になります。それから、この心筋症というのはいろんな種類がありますけれども、とにかく心臓の筋肉がもうへたってきて、しっかりと動けなくなって、筋肉は薄くなり、縮む力は弱って心不全になる。ほとんどが心臓移植しか助けられません。非常に厄介な病気なんです。ところが移植っていうのは、いつでも誰でも受けられるものではない。自分の車が壊れてきたから新車に買い替えろって言ってもそう簡単にはいかない。しょっちゅうエンストするけどなんとか直して走れるように修繕する手術がバチスタ手術であり、私の考えた新しい手術なのです。

それから、一番よくあるのは不整脈です。これは、たちの悪い不整脈、心房細動とか心室細動とか、治療をしないといけない不整脈から、期外収縮といって時々ポコッポコッと胸がウッとくるような、これはもう病気とは言わない、心臓のしゃっくりみたいなもので、放っておいていいんです。薬も要らないんです。だから、医者の役割は、どういうタイプの不整脈かというのをきちんと見分けて、余計な心配はさせない。でも、治さないといけないのはきちんと治すというのが腕の見せどころなんです。最後に、心臓に癌はないんですか?ってよく聞かれますけれども、癌はありません。ですが、それ以上に悪性の肉腫というのができます。筋肉ですから筋肉腫です。骨にできれば骨肉腫です。こういったものを全部ひっくるめて心臓病といいます。

今日お話するのが、私のライフワークである狭心症や心筋梗塞の治療です。さっき心臓が1日10万回動くと言いましたけれども、やっぱり動くためには栄養分が必要です。エンジンがまわるためのガソリンが必要で、ガソリンを送るパイプが冠動脈という血管です。心臓から送り出された血液が出ていく大動脈の根元から心臓を包むように冠動脈が出ています。

そこから筋肉に血液が送られているわけです。これはその血管を映したものですが、真ん中がもうほとんど詰まりかかっています。こうなると胸が苦しい、動くと息切れがする、これを狭心症といいます。そして、完全に詰まってしまうと心筋梗塞になるわけです。その原因は動脈硬化がほとんどなんですけれども、こういうふうに血管の内側にコレステロールとか血小板とかのゴミがいっぱい溜まってきて、中が詰まってくるわけです。これを輪切りにすると、本当は血管内が開いているはずが、どんどん壁が分厚くなって通り道が狭くなっている。こうなると、ちょっと動くと苦しいという症状が出てくるわけです。

実際ぶ厚くなった血管壁には、黄色いオカラみたいなものが詰まっていて、血液の通り道が狭くなっている。こういうオカラをプラークといいますが、これがいきなり破裂するんです。プラークラプチャーといいますけど、破裂すると、流れている血液がそういうものに触れて、血の塊、血栓になります。そうすると、あっという間に心筋梗塞になるんです。だから、狭心症の人はなぜ血液をサラサラにする薬が必要かというと、こうなった時に血栓ができないように予防しているわけです。

もう一つは、冠動脈の動脈硬化がどんどん年季が入って、長い時間経過すると、血管の壁が石みたいになります。これを石灰化といいます。下の写真で真っ白に映っているのは石灰化して、カチカチになっているところなんです。こういうところが増えてくると、中が詰まってきている可能性が非常に高くなります。こういうのをうちのmedockでは、心臓のCT検査で、一発で見つけられます。5、6分の撮影で綺麗に見えますから、本人は元気にしていて何も問題ないと思っておられた人が、健診に来られてこんな状態だということがわかって、専門病院で検査を受けたらもうほとんど中が詰まりかかっていて、すぐ治療して助かったというケースがたくさんあります。

だから、心臓のドックって本当に大事なんです。動脈硬化って、皆当たり前みたいに、そうだよねって分かったようなことを言うんだけど、これは医者だって同じです。医者だって、血管を手術している外科医以外の医者はほとんど動脈硬化っていうのを見たことがないんです。これは人間の身体の一番太い大動脈です。これは若くて元気でヘルシーな大動脈ですけれども、これが動脈硬化になると、こんなふうに、ある部分は膨らんできて動脈瘤になり、ある部分は狭くなって詰まってくる。これを見て、「すごいね、酷いね」と言っている、これは血管の内腔を見ているだけの話で、これを包んでいる血管の壁なんて誰も見ていないし、実際分からないわけです。だから、動脈硬化がどんなものか知っている人はあまりいないんです。

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